Article
0 comment

ギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』をみて、小説版を読むはなし

ギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』をみました。

あらすじは、

1962年、政府の研究施設で清掃員として働く発話障害の女性清掃員が、水槽で飼われている魚人を見つけ、孤独な彼女はその生物と交流を深める。(wikipedia)

というもの。

彼が2004年にマイク・ミニョーラ作のコミックを映画化した『ヘルボーイ』にもエイブという半魚人がいて、有能で温厚なとてもよいキャラクターだったのですが、
予てからモンスター好き、特撮好きを公言している彼が撮るオリジナルの、半魚人と女性とのラブストーリーと聞いて、みるのをとても楽しみにしていました。

『ヘルボーイ』のエイブ(監督のTwitterアカウント @RealGDTより)

主にダークファンタジーであるお話は勿論、常に物語性(そこにそういうツノがあるということはどういう生活をしているのか?)があると同時にとにかく格好いい造形の”異形のもの”、とセットと小道具と設定、
あとは今作のひとつ前の作品『パシフィック・リム』では大規模な、ロボット(を操縦する人間たち)×怪獣という映画に、不必要な恋愛要素を入れなかった(強い絆で結ばれた男女がラストシーンでキスしない!)ところなどがとてもよいデルトロ監督。

誰かを、何かをなくす悲しみ、身の置き所のなさ(不適合さ)と それが適合してしっくりきたときのひらめき(悲しい結果の場合もある)、を描くとすごくぐっさりくる監督だと私は思っているので、その彼がラブストーリーを、と聞いて悲恋になるのかならないのかが気になりすぎました。

予告編を置いておきます。日本で公開されるものはR15+になるようです。

感想を書きます:

とてもよかったです。感想というか、順番に「水の形」を思い出してメモしたみたいなかたちです。

___________________________________

オープニングの夢の中でイライザは部屋中に満たされた水の中で眠っている。幻想的で心地よさそうだけれど、その夢はすぐに醒めてしまう。

マイノリティーについての話だということはきっとすぐにみんな分かる。
口がきけず、映画館の屋根裏に住み、夜勤の清掃員をしている主人公のイライザは、日々のルーティンを静かにこなし、その表情は穏やかに見える。
それと同時に、彼女はあらゆる物理的な、精神的な檻から、あらゆる夜という時間から抜け出すことができない状況をそのままのみこんでしまっているようにも見える。

決まった個数の茹で卵を決まった時間に茹でながら、小さなバスタブに浸かる。

ある日突然、イライザは水槽に閉じ込められた不思議な生き物が、清掃している建物に運び込まれたことを知る。忍び込んで交流するうち、ほぼ虐待のごとき実験の対象となっているその生き物を、なんとかして助け出せないかと彼女は考えるようになる。

狭い筒状の水槽で運び込まれた魚人が、鎖につながれたまま、巨大な水槽と水のない実験台を行き来する。

私が思っていたよりずっとはやくイライザは恋に落ち、周りを巻き込みながら計画を行動に移していった。それは磁石が硝子越しにでもくっつくような、必然であるかのように描かれていた。緑を基調とした画面を、彼女が身に着ける濃いピンク色の靴が、服が、髪飾りが、彩る。

イライザが通勤バスの窓に見る水滴も、踊っているかのようにくるくると動く。

奪取したあとの、バスタブから溢れさせた水を浴室に満たして大きな水槽のようにした中でふたりが抱き合うシーンがやさしく美しい。オープニングでイライザは居間に満たされた水の中で心地よさそうに眠っている。どこかで彼女は、彼女をそのまま包み満たしてくれる有り得ないような存在を求めていて、それが現実になった。水はなにかが欠けた部分に流れ込む。それは認める、優しくする、などの意識を持つものではなく、ただただそれが自然なことだからだ。人間はふだんどうしても欠けを意識してしまう。欠けの有無、欠けの場所や種類の違い、多さや深さ。それが全く関係ない存在を、恐らく彼女自身が意識するよりも強く彼女は求めていたのだろうなと思った。それだけ満たされた顔を彼女はしていた。

結局ふたりでいることを、研究施設からの追手に脅かされた彼らが向かう場所へ、後押しするかのように雨が降る。水は世界を満たしている。形が変わっても、大丈夫、安心して。側にいるのだから。と語りかけるように。

この上なく幻想的なラストシーンで、この上なく幻想的なことが起こる。

私たちはそれを目撃し、はっと息をのむ。

イライザがのみこんでいた”状況”は、思いもかけない生き物の登場によってみるまにその趣きを変え、形を変え、イライザ自身を変えていった。その生き物がいなければ開かなかったかもしれない扉が大きく開いて、息を潜めていた(そして”それでいい”と思っていた)彼女の一部分が、深呼吸をし始めた。

そういうことは誰にだって起こりうる。

私たちはそれを忘れかけていたからだ。

___________________________________

えーっと皆さんぜひみてください。(いつもそれ

私はこれを全然悲恋だとは思わなかったのですが、皆さんはどうでしょうか。

(“ぐっさり”はすごく、”ぐっさり”でしたよね…!)

小説版の刊行がけっこう早くから決まっていて、デルトロ監督とダニエル・クラウスという方の共著、という話は知っていたけれど、

The Shape of Water Novel Does Much, Much More Than Adapt the Movie

直前に出たこの記事でただのノベライズではない、映画で描かれなかった部分(ストリックランドが魚人を捕獲しに行く話や彼の奥さんの話など)をふんだんに含んだ作品だと知り、こちらも楽しみに待っていた、ら届いてびっくり六百頁ほどもある!

すみませんタイトルには「読んだ」とありますが読み終わったら2/2として更新したいと思います。いや「読む」、にしとこかな。

ゲームデザイナーの小島秀夫さんによる記事はデルトロさんへの愛情にあふれていて読みごたえがありました。

小島秀夫が観た『シェイプ・オブ・ウォーター』 (文春オンライン)

映画評論家の町山智浩さんもいつもの口調でたくさんの情報をくれていました、これはラジオを書き起こしてくれた方の記事。

町山智浩 『シェイプ・オブ・ウォーター』を語る (miyearnzzlabo)

参照:

The Shape of Water(Fox Searchlight)

The Hand-Drawn Journey of the ‘Shape of Water’ Poster(The New York Times)